One and Only 4.3

2008/11/08

長編

ディアストーカー・ハット

日曜日、朝練が終わって昼飯食って出かけた先は近くのショッピングモールだった。
食事中姉貴が荷物持ちに付き合えと言ったから、何か買えと言ったら途中で何か食わせると言ったので、それで妥協した。

日曜の街中は人がごった返していてうぜぇとしか言葉が出てこなかった。姉貴は親から頼まれた買い物をしたり、友人の誕生日プレゼントやら会社の人の送別会の贈り物だの買い物をとめる気配すらなくて俺は大通りを見ながら大きなあくびをついた。

「ごめんね。もう少しかかるから大人しく待ってて」
姉貴ですら似合いそうに無い雑貨屋に居心地悪そう出てきてからぼんやり立ち尽くしたままだった。こんな事なら食べ物に釣られてついてくるんじゃなかったと後悔だけが押し寄せた。でも、途中で放棄したらどんなしっぺ返しを食らうかわかんねえから、「わかった」と二つ返事で店の前で待つしかなかった。
少なくともこうしていれば姉貴は上機嫌で何かと食わせてくれるのは明白でもある。

風が吹いていろんなものが左に流されそうになっていた。
俺の足元に帽子がコロコロ転がってきた。それはホームズが被りそうな帽子で、こんなもん被ってるヤツがいるのか、はたまた売り物が飛んできたのか分からないものだった。思わず黙って拾い上げてキョロキョロあたりを見回した。

誰も来る気配も誰かが何かを探している気配もなく、ぼんやりと帽子を眺めていた。見れば見るほどホームズの帽子で間違いねえ、と少し被ろうとしてみてもサイズが合わずに頭に入る事もなかった。
帽子をまた手持ち無沙汰に触ってたらキョロキョロあたりを見回しながら鈍行でやってくるヤツらが居た。多分アイツらのうちどちらかだろうな、と思ってぼんやり見ていると、「あった!」と低くも無く高くも無いトーンの声が聞こえてきた。

すたすたと一人が俺の目の前にやってきて「その帽子…」と言うから「風に流されてきたから拾った。お前のか?」と尋ねれば「ありがとうございます」と申し訳なさそうでいて、恥かしそうな笑顔を向けられた。

あ、こいつ知ってる。

バスケでどあほう軍団と居た転校生だった筈、とホームズの帽子を渡して尋ねようとすれば、向こうから「おい!拾ったなら次行くぞ!」と言う声が聞こえてきて転校生が帽子を被りながら向こうを向いて「少しくらいは待つって心得無いの!?」と俺に対して喋っているものとは全く違う口調で叫んでいた。

「ありがとうございました」と軽やかに踵を返してのんびりと呼ばれた方向へ小走りしていた。その先に居たのは翔陽の藤真サンで、転校生は藤真サンと話をしながら百面相をしていた。やがてその姿が見えなくなったあたりで姉貴が店からうんざりした表情で出てきた。 「お待たせー…」
「あったかのか?」
「あまりいいもの無かったわね。次行くわよ、次!」
さっきの転校生が戻った道とは別の方向へ引っ張られ、後ろ髪ひかれるように振り向いたら姉貴がそんな俺に気がついた。

「あら、楓。どうしたの。向こうに何かあるの?」

「転校生を見かけた。知り合いに似てるヤツと一緒だったから気になっただけだ」

俺がぼそりと言えば、姉貴は少し考えた後に、
「日曜日に買い物って彼氏彼女かウチみたいにきょうだいなんじゃない?」
と気の無い返事をした。どうやら次の店のリストが頭の中の大半を占めているようで、長くなりそうな買い物に俺は溜息をついた。

姉貴の後ろを歩きながらふと振り返ってみた時には既にホームズ帽の転校生の姿はもう大通りから消えていた。