One and Only 4.0

2008/11/08

長編

安息の曜日(=日曜日)

土曜日の夕方に健司くんから電話があって日曜日11時から待ち合わせする事になった。
買い物するから目利きをやれ、と一方的な要求を突きつけられ、面倒だから行かないと言う前に「昼はおいしいベーカリーに行くんだけどな。来るなら食わせてやる」と言われて簡単に折れてしまった。

待ち合わせ場所には既に健司くんが到着していたようでものすごく不機嫌そうなオーラで周りを威嚇するように睨み付けていた。見目はいいんだから普通にしておけば害すらないのに、見目が良い分、威嚇するような睨みは強烈に恐ろしいと感じるのは私だけではないようで、行く人たちが遠巻きに関わらないようにしているのを見て、ああ誰も気持ちは同じなんだと独りごちた。

「おはよう。10時57分。時間内よ」
先制するように私が言えば、私を睨みつけたまま「俺は待つのは嫌いなんだ」と言い放つので、我が侭王子め!と心の中で悪態をついて思わず溜息を吐いた。
「次からもう少し遅く来たらいいじゃない」
私がそういえば「次からそうする」と意外にも普通の返事が来たので私もそれ以上詮索する事も蒸し返す事もやめた。

「靴とシャツを見に行くんだけど、はどこか行きたいところはあるか?」
「そうねえ、本屋で新刊のチェックと…輸入食材店くらいね」
私がそういうと、昼食までに一番早く終わりそうなのは新刊チェックだな、と判断したようで「先に本屋だな」と言われそのまま大型書店に向かった。取り分け面白そうな本はなさそうで、昔の作家なら古本店で買えるのもあって「特になかった」と言えば、健司くんが雑誌コーナーに行くというので一緒についていく。スポーツ誌のコーナーには若い男性が多くいて、自分のフィールドの書棚とはまったく違った雰囲気に思わずきょろきょろあたりを見回した。

雑誌をパラリと捲くって内容を確認して棚に戻す健司くんに「買わないの?」と尋ねると、「特集次第だな」と合理的極まりない回答が返って来た。
の場合は、集めてるものは取り敢えず買うタイプだろう」
見事なまでの指摘に私は「そうよ、悪い?」と返すと「そこまで言わねえよ」と突っ込まれた。

本屋を出れば丁度昼食くらいで、「パン」と私が言うとあはははと明朗に笑いながら健司くんが「行こうか」と私の手を引いて小走りになる。鈍足な私に歩調を合わせていたら時間があっても足りないといわんばかりで、こちらは目が回るし足はふらふらでそれでも無理に走らされるような形になって店の前につく頃にはゼイゼイと肩で息をするくらいなのにスポーツをしている健司くんの方はと言えば平然と「、お前年寄りだな」とバカにするように笑った。

ちょっとムカっとときた私はお店に入るなり、意気揚々とトレーに好きなだけパンを乗せ始めてやった。二人でもこれは食べきれない量だろう、思えるだけ乗せて、カウンターで一番大きなサイズのコーヒーと野菜サラダも注文するように言えば、健司くんは何も言う事なく注文と会計を済ませていた。

「見事にハード系ばっかだな」
席についた私に健司くんがぽつりと呟いた。
「好きだから仕方ないわ」と言えば「だったらよかった。この店の目玉はこれ系統だからな」と予想外なまでに健司くんが爽やかに笑うので「そうなの」と簡潔に答えてサラダを齧った。
目の前のパンを二人で好きなだけちぎっては食べ、を繰り返して私が山積みにしたパンは跡形もなくなくなってしまった。

「よく食べたものね」とあきれ返りながらも感心したように呟けば「食べ盛りだからなあ」とさらりとした返事が返ってきた。少なくとも私の倍を行く食べっぷりに見ているこちらがもういいや、と思えてきた。それでも私も想像以上においしいパンを食べ過ぎたようで既に満腹感に満たされて幸せいっぱいだった。

「持って帰るか?」
意外な事を言う健司くんに「うん」と答えると持ち帰り用にパンを買って持たせてくれた。
「それ賄賂だからな。しっかり午後から働けよ」
健司くんの言葉に「贈収賄って言うより、報酬の前払いじゃない。…仕方ないわねえ」と私は答えてショッピングモールへとのんびりとした足取りで向かって、あれこれ見ては違うだの何だのと雑談をしながら納得がいったのか数着のシャツと靴を買っていた。

モールから出たころにはもう7時を回っていて輸入食材店はもう無理だな、と判断した私たちは駅へ向かう人の列に紛れていく。
「晩飯はどうするんだ?」
「これにオイルサーディンでも乗せて食べる予定」と私が貰ったバケットを掲げると「明日の朝食にしておけ」と健司くんが言うなり電話を取り出して会話を始めた。
立ち止まった健司くんの様子を伺うように私も人の列から外れて立ち止まってぼんやりと景色を眺めていた。

んちの近くにあるラーメン屋に行くぞ」
突然の決定に「はぁ?」と言う私の手をずるずる引いて健司くんはすたすたと歩いていく。
あそこのラーメン屋さんのニンニクの量は半端ないと言う事実を知るのは注文したラーメンを啜った瞬間だった。明日の学校の前に口臭清涼菓子を買わないと、と店を出た私は直ぐにコンビニに直行したのだった。