桜木軍団のここだけの話
あの流川が手を振っている。
恐るべし、俺は心の中で一人ごちる。
だが、この場にいた皆が思っているはずだ。
恐るべし、と。
「さんって面白いなー」
俺の言葉に流川が憮然とした表情を浮かべていた。
いつも仏頂面だけど今日のコイツはいつも以上に不機嫌らしく、それを隠そうとはしない。さっきまではそうでも無かったから原因はいくつか思い浮かぶけど、元になる人物は一人しか居ない。
その元になる人物はいまここには居ない。
「さんに一時間目のノート貸さないとなんないだろうし、俺も戻るわ」
軽く手を振って屋上に背を向けると後ろから珍しく声をかけてくる。
「てめー何組だ?」
それを尋ねるのも今更でもあり、バスケ以外に興味を示さないあのキツネが反応するから面白くてついからかい口調で、
「それを知ってどーすんの?」
と振り向いて尋ねた。
「…何でもねー」
そっぽを向いて憮然としながら流川が言うが、顔には思い切り良く『が気になります』と書いてある。
超人とか、バスケが恋人だとか、いつでも女と付き合うことができるヤツだとか、色々言われてるけど、俺にはその時ばかりはあいつですら普通の男に見えた。
「花道と同じクラス」
敵に塩を送るのではなく、援軍を差し向けるくらいの気持ちで答えると流川が「ム」とだけ声を発した。
いや、この場合、面白くて珍しいものを見せて貰ったおひねりみたいなものか。
そのまま階段を降りてクラスに向かう廊下を歩いていると後ろから大楠たちがついてきた。
「もしかして流川ってさんに一目ぼれだとか?」
野間の一言に俺は「多分それ」と答えると大楠と間宮が「ええええ!」と大声で叫ぶ。
廊下中の視線が一斉にこちらに集中させるように睨まれた俺たちはコソコソ隠れるように階段の踊り場に向かった。
「誰にも言うなよ」
俺は釘をさせば「何でだ?」とごく純粋な質問が打てば響く要素で戻ってくる。俺は笑って納得させるような答えをそれとなく言う。
「これほどまでに面白いネタを他人にふれさせるのは我慢ならないし、何せ相手が相手だからあとで厄介ごとに巻き込まれるのもイヤだからな」
俺の言葉に「なるほどー」と三人が答えたと同時に授業開始のチャイムが鳴った。