流川楓

2008/10/10

短編。神はいませり。世はこともなしと対になる作品です。

God's in HEAVEN.

「ねえねえ! さんの好きな人って誰?」
クラスメイトとご飯を食べている時になぜか好きな人の話になって盛り上がる。
さしたる興味がない私のところまで話がやってきては追求されるのだ。とりわけ好きな人と言うものが存在しない私は以前に「居ない」と言えば、「本当に好きな人が出来ないなんて不幸だ」だの「人間味に欠ける」だの「ちょっと気になる人とかいないの?」などと追求の手が迫ってくる。

次にそういう話が出てきたときは、敬愛する作家の名前を言えば「ちょっとそれは無いんじゃないの?」だの「そういうのは好きな人とは言わない」だの「感覚がズレてない?」だのまた好き放題に言われてしまった。流石に数回そういうやりとりをした私は学習能力もめざましいもので、当たり障りのない答えを言って適当に誤魔化して置けばいいのだと察して今に至る。

「んー、ルカワくんかなーあ…?」
サンドウィッチを齧りながら適当に答えると、皆がこちらを向いていっせいに騒ぎ出す。
「やっぱりも流川くん? カッコいいよねー!」
さんにもやっと春が来たんだねー!」
「ええー? 私三井さんの方がかっこいいと思うけどなー」
私は紅茶のパックにストローを差し込みながら口々に憧れの男子生徒トークを適当に聞き流していた。
「で、流川くんのどのあたりが好き?」
突然振られてきた話で私は紅茶を逆流させて机の上に置いていたハンドタオルで零した紅茶を必死になってふき取った。シミになるだろうな、と必死にふき取りながらも顔を上げると一緒に昼食を食べている三人がにっこりしながらこちらを見つめていた。

「えー…っとおー…」
少しだけ視線を外しながらしどろもどろになっていた。
追求の手は刻々と迫っている。きらきらとした6個の目がずっとこちらを射るように見つめている事に心臓がバクバク音を立てているのがよく分かる。

「あー、うん。に…人間的なトコロ、かなあー?」

具体的にどこが、と訊かれるとやはり方便は見抜かれるようで、「本当に流川くんが好きなわけ?」と追求の手が差し迫るのだ。三人の気迫に私は思わず「ひぃ!」と声を出してしまった。目の前の三人は人外か鬼か修羅か。
「だって、ルカワくんって超人って感じじゃない? それでもたまに人間的なところを見るとちょっと『あ』と思ってしまうのよ」
しどろもどろ誤魔化しながら弁明らしき事を言ってみると、「なるほどねぇ。意外性か」と納得したようで一気に引き下がった。私はそれを確認して安心から深い溜息をついた。