沖田総悟

2009/02/07

短編

悪魔使いの命運(2/2)

「土方サン。に気安く触らねェでくだせェ」

人の悪い顔を浮かべ笑いながら言いながらを引っ張って自分の所へ抱き寄せた。はバランスを崩して、それでも湯呑みを割らないようにと気を取られた結果縁側にペタンと座りこけた。無事だった湯呑みを確認して、余計な仕事が増えずに良かったと安堵の溜息をついた。
「沖田隊長、現在は職務時間中です。そのような発言は上官に対して謹むようご進言いたします」
 公私混同にして権利濫用をするのが沖田であるのなら、公私をきっちり区別するのである。何から何までが全く違う存在なのに何の因果だろうか、と土方は二人を一瞥してこめかみを押さえながらハァ…と大きな溜息をついたのだった。

「…今のところあんたが副長うえ ですからねィ。コイツ の手前では上官として接してやりまサァ。まあ、寝首を掻くつもりですからその時は気持ちよく首差し出してくだせェ」
とニヤニヤと笑う沖田の言葉に「そういった手合いの発言一つでも仕事は膨大に増えます故に慎んで下さいませ」とが沖田にピシャリと注意する。

注意する理由も理由だと、あくまで合理主義を貫くの言葉に土方は「ドSの悪魔と完全なる合理主義者な悪魔使いのドコンビじゃねえか…」と土方が呟いた。
その言葉にだけが己の矜持にかけて「副長、それは余りにも失礼です!」と即座に言い返した。
「沖田隊長も早く職務に戻ってください」

急き立てるようにが追い立てても暖簾に腕押しなのか飄々と部屋に上がりこんで沖田は壁に凭れて座り込んだ。
「あと15分もしたら戻りまサァ。だから俺にもお茶を淹れてくだせェ」
沖田の言葉には土方に目配せをする。あくまでも上司である副長に指示を仰ぐを見て土方は、合理主義故の無茶はあるものの、やはりは常識人である改めて感じ、「…淹れてやれ」と返事すれば、彼女は「はい」と短い返答をしてからお茶を入れた湯呑みを沖田に手渡した。

15分どころでなく30分くらいは仕事にならないだろう、と土方は新しいタバコに火をつけて紫煙をくゆ らせた。
「俺が悪魔で、が悪魔使いって、面白い喩えですやねィ」
沖田は噂とは全然違う考え方ですやねィ、とカラカラ笑った。そのお茶を口に含ませてにんまりと嗤った。そんな彼をあえて無視した形で土方はに尋ねた。

「あのドS悪魔と付き合っていく秘訣は徹底した合理主義か?」
「副長曰く、私は悪魔使いか悪魔崇拝者サタニスト らしいですからねぇ…」
土方の言葉に半分仕事に戻っていたは困ったように笑いながら口を開く。そんな彼女の隣に気が付けば沖田が座っていた。
悪魔崇拝者サタニスト だったんですかィ? その辺の話もぜひ聞かせて欲しいものですやねィ」
人の悪い顔で嗤う沖田の姿に土方とは溜息を零して同時に口を開いた。

「総悟が悪魔だけどな」
「隊長が悪魔ですけどね」

揃ってお前は悪魔だと宣告された当の沖田はニヤニヤと笑ったまま「心外ですねィ」とだけ漏らした。は沖田の言葉に続けて、

「だから、隊長と付き合っていく秘訣は“いかに契約をしないか”が鍵ですわね」

と続けた。そんなを土方は訝しげに、沖田は楽しそうに見た。そんな二人の視線を多少は気にしながらも気にした所でどうしようもない、と観念したのかは平常を装いながら書類を捲りながらごく淡々とした口調で話を続けた。

「私は至ってノーマルですし犠牲や代償を払う気はないんです。そんな私の引き受け手は悪魔くらいのものでしょう。でも、悪魔は騙したり陥れたりするのが好きですからね」

沖田の方を見てにっこりと笑うの姿をみて土方は溜息を一緒に「さっきの発言を聞いて俺はもしかしてはやっぱり常識人と思っていたが正真正銘の悪魔使いだったみたいだな…」と漏らした。即座には「違います!」と答えたがもうその反論が土方の耳に入ることは無かった。

“いかに契約をしないか”。それが出来れば苦労がない、とボヤく土方に「要は石鹸やブラシは貰うけど浄水器は買いませんって事ですわ」と一件まともな事でもありながらも、沖田相手になれば早々出来そうにもないアドバイスをが続けた。
「書類がまとまりましたので庁舎へ行って参りますので30分ほど席を外します」

「悪魔と契約ってのは、徹底した合理主義のか悪魔すらも従えそうな総悟にしかしか出来ないだろうな…」
隙のない動作で事務室から出て行ったの姿を見送りながら土方が呟やきながら沖田のほうを見ると彼は嬉しそうな表情で彼女が去ったドアをじっと眺めていた。

「どうした、総悟?」
また良からぬ事を考えているんだろうと思いながらも確認するように土方が尋ねれば、沖田は嬉しそうに「はやっぱりいいですねィ」と口を弓なりにさせて嗤ったのだった。

沖田の歪んだ笑顔を見てあの実直な部下はとっくに罠にはめられているのか、それとも目の前にいる悪魔を手玉に取っているのか、どちらにしても頭痛の種になっているのか土方はこめかみを強く押さえたのだった。

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