スナパラッチ
秋深まる文化の舞台も終わって、秋色の枯葉も空を舞ってやがて散ろうとしていた。
あなたを惑わして恋に落とすなんてとてもじゃないけど私には無理だからせめて、最後に出来る最大限の事をしようと、あなたを探し回った。
そのたびにあと半年お世話になるスカートがひらりひらりと揺れた。
「お、。体育館で見るなんて珍しいな」
「や、牧くん。半年ちょっと振りくらい?」
私の思いもこの枯葉のように散るだけなのだと体育館に吹き抜けた風が告げた。
「そうだなー。2年の終業式以来だからそのくらいだな。どうしたんだ?」
「卒アル委員」
私の言葉に「なるほど。写真か」と手をぽんと合わせて相槌を打っていた。その無邪気な仕草も全て含めて大好きです。
「ご名答」
私の言葉に「正解者への景品は?」と笑いながら冗談を返す。
私が苦手な帝王、牧紳一の姿はそこには無く、私が好きになったあなたの姿がここにあった。
「しかしここに居るってよく分かったな」
呑気に構える牧くんの言葉に「牧くんのファンの子がこんなに体育館に押し寄せてたらいやでも分かるよ」と告げると真剣な表情で彼が言う。
「いや、彼女らはバスケ部の応援だけだろう。俺ってワケじゃないぞ」
そういって豪快に笑う牧くんは天然炸裂で呑気な事を言っていた。明らかに牧ファンがキャアキャア言っていたのにそんな事もあなたにとっては蚊帳の外、取るに足りない事なのだろうか。
「はい、三年生中心に写真撮るから勝手に動いててねー」
私はそれだけ伝えてカメラを構えて好き勝手に撮影をする。近くで「勝手にって…」とボヤく下級生が居たけどお構いなしにカメラのシャッターを切り続けた。
時が止まるんじゃないかと息を飲んだこの世界に私の入り込む隙なんてこれっぽっちもない。
「インパクトのある写真も欲しかったんだけどな。試合もなさそうだし無理か」
結構な枚数を取って、予備として持って来た自分の携帯を構えると牧くんがこちらを向いて
「。何なら脱ごうか」
と言い出した。
「恥をかくのは牧くんだから私は止めないわよ」
内心で焦る私は平静を装いながら、言葉を口にすると、牧くんが「相変わらず反応が薄いな」と相変わらず豪快に笑った。
あなたの想いまで丸ごと奪えるワケないのに、一瞬だけ奪えるんだと信じて騙して、あなたのそのふしだらな冗談までも撮り尽くそうと自分の携帯を向けた。
卒業アルバムに残すあなた以外のあなたは、この携帯で撮った貴方をそっくり持ち帰ればいい。
私の眼のフィルムだけじゃきっといつかわすれてしまう。それを止めるためにも、今持っている全てを使って。あなたの何もかもを忘れる事なんて、絶対出来ない。分かっているからせめてこのカメラに記録しよう。
「あのさ、牧くんって本当バカな事言うのね。帝王の名とファンの子たちが泣くわよ?」
「ははは、の毒舌っぷりは健在だな」
私のできる最大限のことは、あなたのその姿を焼き付ける事、そしてあなたという存在は偉大だったという事を最後の日に皆に伝える事。
私はそれだけで満足しよう。本当は出来ない癖に満足したのだと自分を誤魔化すのだ。