ロマン主義者の戯言
「赤い糸、って言うのもねえー」
日曜日にデート、と言っても雨の中で外に出て行く気もなく、家のリビングでソファに横たわり小説を読み耽りながら呟いたに来客用の一人掛けソファに腰掛けながらバスケ雑誌を捲る藤真が手を止め怪訝そうな顔をする。彼女はその気配に気づき本を指で挟みながらごろんと視線の先に顔を向けた。
「どうしたの?」
無意識では呟いたのだろう、怪訝そうに彼女に視線を送っている藤真の姿を見た。彼女は不思議そうな表情を浮かべて理由を尋ねる。
「赤い糸がどうしたって?」
顔だけ向ける姿に苦笑いをして彼にしては珍しく穏やかな表情を浮かべて質問に質問を返した。
「あら、私そんな事言ったかしら?」
考えても答えが出ないといった顔をしながらソファから起き上がり足を投げ出し、相変わらず三人がけのソファを占領しながらがさらに質問を返す。
質問のいたちごっこに気づいた藤真は呆れたような苦笑いを浮かべて
「言ったろ?」
と返せば、はそうかと言わんばかりの表情を浮かべながら言葉を紡いだ。
「そう? ならそうかも知れないわね。今読んでた小説に『赤い糸はどこに繋がるのでしょう』とあったから」
起き上がり背伸びをして淹れてから時間が経ち冷えたコーヒーを口に含んでが言ってふっと笑う。まるでそんなものなど存在しない、と言いたげなどこか現実的な遠い目をしている。それを見て藤真は苦笑いを浮かべたまま、「ロマンのかけらも無いヤツ」と小声で言えば「悪かったわね」と彼女が苦笑いを浮かべ彼に応酬する。
「赤い糸か。なあ、の赤い糸はどこに繋がってんだ?」
「そんなもの信じてるの? 健司くんって存外にロマン主義だったのね」
鼻で笑うに「男は皆ロマン主義なんですーッ」とバカにしたような冗談交じりで藤真が言えば「冗談がきつすぎると笑うに笑えないわよ」とは返事をして笑った。
「だいたいお前がとんでもないまでの現実主義者なだけだろう」
的を得た藤真の指摘に「そうね。反論の余地もないってこういう事を言うのね」とが続けた。
「なー、赤い糸があるんならサンのはドコに繋がってるんの?」
優しく諭すような、それでも自分以外への繋がりは許さないと言わんばかりに藤真はに問いた。
「久々に苗字で呼ばれると新鮮なものね、藤真くん。そもそも赤い糸があるかどうかも不思議なくらいよ。赤い糸はどこに繋がってるか皆目検討も付かないわ」
はぐらかすつもりは毛頭ないが、少し位はぐらかせて見ても良いのではと思い彼女は底意地の悪そうな目をして彼の質問に答える。
「俺のところへは繋がってないのか」
藤真はのはぐらかそうとする魂胆が分かっているのか、同じような意地の悪そうな視線を彼女に投げかける。
「別に繋がってなくてもいいじゃない。繋がってなかったのならムリに切って結んで繋げるなり、他の糸を『これが赤い糸です』と騙せばいいだけなんだから」
世の中って一寸先は闇、って言うし?と、彼女は両手を小さく上に上げて降参といわんばかりのポーズを取る。その姿に藤真は「うっわー。恐ろしいヤツ」と一言だけ漏らした。
その一言を発した時の彼の表情は余りにも穏やかで、もまたその表情に対して満面の笑みを返したのだった。