藤真健司

2008/10/26

短編。無策、秘策で1セットの作品ですが単体でも完結しています。

無策と秘策(無策)

「あんなヤツのどこがいいのかしら?」
私から見ればいい性格をした悪魔にしか見えない藤真健司が格好良くて性格もいい、なんていい始めたのは誰なんだろう。評価できる点ではまあまあ趣味の一致があることくらいで、ボードゲームやカードゲームを持ってきて楽しそうに参加するのは藤真健司と目の前にいる友人くらいもので、ポケットオセロの対戦相手をして貰ってる友人とそれを観戦している友人に本音を漏らした。

友人は顔を見合わせてストレートに物を言う私に苦笑いをして口々に「ちゃんにはまだ早いかな」「早いね」と口をそろえて言う。
「好きな人っているの?」
オセロの駒を返しながら尋ねられたので私も次の置き場を考えていたもので「好きな人くらいは居るよ」と返答しながら、駒を置き色を返している私に「誰?」と尋ねてくるので「居すぎて答えられないよ」と言えば、「面白くない」と適当にあしらうような返事をされた。

「今日はオセロか」
背後から声をかけられて私は思わず「ギャー」と悲鳴を挙げて友人を隠れ蓑にする。
「俺は化け物か」
ちょっとでも言い返すとすぐに頬を抓ったり頭を叩いたりする藤真くんは化け物より怖い存在です。それでも私は終局まで気を抜く事なくオセロを続けて友人に勝った。
気づけば藤真くんもオセロの対局を真剣に眺めていた。こうして真面目にしていれば無害なんだけど口を開けばどうしてああ有害な人になるんだろう。

「やっぱちゃんは強いや」
友人の褒め言葉に私は嬉しくなって上機嫌に笑っていると、「次、俺と対局。な!」と藤真くんがどこからか椅子を持ってきてオセロを自分の方に向けて準備を始め私に対局するように言ってきた。
「ええ…」
俺様持論を振りかざして一方的に話を進めて行く姿に少し辟易しながらも、オセロの対局というのはものすごい魅力的であった。受けるべきか拒むべきか、考え倦ねる私に餌のついた釣り針が落とされる。

「賭けよーぜ。三本勝負で負けた方がマックを奢るとか。それともちゃんは井の中の蛙だから負けるのが怖いとか?」
こいつ負かす。
考え倦ねた私の思考はぴたりと止み、闘志に焔が点いた。
「受ける。私が勝てばマック以外で何か奢って貰うわ」
友達が「あーあ、言っちゃった」と呆れ果てて居るのを尻目に挑戦者・藤真健司とじゃんけんを始めた。

「はー、負けた…」
三戦目、ギリギリのところで勝った私は溜息をついて「勝った…」と呟いた。友人たちはバイトがあるから帰るね、と2戦目が終わった地点で帰っていった。この地点で1勝1敗。2戦連戦すれば今からでも一緒に帰られるのに、と2戦目を取った挑戦者を睨みつけながらも「うん」と友人の言葉に頷いた。
小さな声で藤真くんと友人が2・3、言葉を交わしていたが耳に入らず盤面を見てただ勝ち抜く事だけを考えていた。

三戦目はかろうじで勝った。最終的に10コマの差で勝てたものの、あの時にあの場所に置かれたらという局面が2度ほどあり、ほっと胸をなでおろした。あれだけ啖呵を切った藤真くんは「じゃあ、奢らせて貰います。学校下のモスでいいか?」と殊勝なことを言うから思わず「結構いいヤツだったんだね」と言ったら「どんなヤツだと思ってたんだよ」とまた今日も頬をギリギリと抓り上げられた。

前言撤回。やっぱりちょっとイヤなヤツだ。