神宗一郎

2008/09/23

短編

神様の悪戯

「当たって砕ける!」
授業中に手紙を交換していた際、『実はクラスの神君が好きデス』と手紙にて白状させられた。その成り行きの延長にある休憩時間の際、私が友人に告白する旨の宣言をすると、友人が「おおおお!」と歓声をあげた。
「砕けて来い。今日をの記念日としよう」
「え、砕けるの前提?」
軽い掛け合いでなんとなく砕けてしまってもいいかな、と投げやり半分、気合半分。
気楽に行こうと決めたのに、砕けるどころか当たる事さえ侭ならない私は昼休みにはすっかり意気消沈である。

「で、大先生たるもの、すっかり尻すぼみですか」
大先生というイヤミとわざとらしい溜息を見せ付けながらお弁当箱を片付ける友人が私の方をじっと見つめて呟いた。
「砕けるのは受動だから楽だけどさ、当たるのは能動すぎてどうにも出来ません…」
話をするのですら緊張するって言うのにどうやって切り出せばいいのかうじうじしている私の頬を抓って友人がずいっと接近してくる。
、私はアンタだったら大丈夫だと思う。頑張っておいで」
彼女の目は雄弁に『大丈夫』だと言い張るのだ。
「それって砕けようとも私ならすぐに立ち直れるって意味かしら?」
私が問い詰めると彼女はすり抜けるように「その件は見解の相違とだけ答えておくわ」とお茶を濁したのだった。

しかし困った事に彼女の性格は『根拠は無いけど自信はあります』と言って憚らない。その多大なるバイタリティはどこから沸いてくるのだろう。
「エネルギーチョウダイ…」
私はあのバイタリティを分けてもらおうと「充電、充電」と友人にしがみつくように抱きつくと彼女も「おうおう。充電充電」と言いながらしっかりと抱きとめてくれる。
「何? 充電ゴッコなら俺も混ぜて」
「…だって、。混ぜてあげるけど異論はないよね」
私は顔を真っ赤にさせて口をパクパクさせる以外になかった。

「はい、充電させてやって」
声の主の方に私をぽんと突き放して友人がニカニカ笑っていた。
「充電充電。しっかりどうぞ」
のんびりとした穏やかな笑顔を浮かべた神くんにそのまま抱きしめられたまま私は硬直する。いや、だって彼に告白して当たって砕けるために充電していたいのに、何もかもすっとばして今のこの状態になす術なんてなく、何も言える筈も無かった。
「で、さんって何のために充電してるの?」
上から聞こえてくる声に『あなたに告白するための充電です』だなんて言える筈もなく「いッ、イエ、その…」と口ごもってしまう。
友人はニヤニヤしながら私の様子を高みから見物していて、何の手も差し伸べる事なく「私これから部活のミーテイングだから、あとよろしくね」と神君に手を振っている。

「ねえ、さん」
充電から解放して貰った私は神君から話しかけられる。
「え、な、ナンデスカ…」
心臓がバクバク言って頭も働かないなか返事をした私に神君がまぶしいまでの笑顔を向けて話を続けようと口を開く。
「俺とだったら当たって砕ける事もないのにね」
異常なまでにテンパっている私は、彼の言っている事を即時に理解出来ずに投げられた言葉を頭で反芻させる。反芻させれば直ぐに言っている内容は理解できた。
性質の悪いジョークかと思って口をパクパクさせているのに当の神君は涼しげな笑顔を崩す事なく、ニコニコと笑ったまま。
「だから当たって砕けてくるの、止めておかない?」
「ヤ、ヤヤヤメテオキマス…」
ねえ、これってなんて神様の悪戯、なのかしら。