それから
「えっと…その、俺でよかったら」
仲の良い部活仲間の腐れ縁という認識しか無いと思っていた。それなのに勢いに任せて告白をしたら「俺も」なんてことを言うからつい「付き合ってはくれませんか?」とさらに踏み込んだ、恐らく今後こんな事はないだろうと言うまでの一世一代の告白を気づけば混乱した頭で紡いでいたらしかった。
ひとりであたふたする私を尻目に笑いながらも、私にとってはこの上なく素晴らしい返事が貰えたのである。はっきり言えば未だに信じられない話であり、たまにこれは夢じゃないだろうかと思う日もある。
「ねえ」
私が問いかけると、「何?」と簡単な返事が上から降ってくる。身長およそ2メートル。女子平均身長程度の私と比べてその差およそ30センチ定規1本強。
「今でも夢みたいだと思うんだけど、どうしてまたその気になったのか知りたくて」
こうしているのは夢なんだろうか、現実だとすればそれは気の迷いから来たものなのだろうか。どことなく不安を引き摺っている私はこの日初めてどうしてオーケーしたのかと、内心おどおどしながらも尋ねてみた。
「さんこそ、どうして俺なんか」
「ちょっと待って。俺なんかって、花形くんはどれだけ人気者なのかって把握してる?」
思わず叫びそうになったのを抑えて、自分を落ち着かせるようにゆっくりと尋ねた。
「さんこそ人気者だよ」
「それは私が珍獣扱いされているが故だよ!」
腐れ縁・藤真健司のオマケみたいな存在らしく、学校のあらゆるところで私を見るや否や指差して口々に「だ」「さんだ」「先輩だ」と言われる始末なのだからよくて珍獣、悪ければ歩くトラブルメーカー扱いである。
質問で質問で返されても私が彼に「質問を質問で返すな」なんて腐れ縁相手であれば遠慮なく言える事もうまく言える筈もなく、気づけばいつも彼の言葉に実直なまでに反応し、あまつさえ愚痴のようなものまで零している私に、それを聞いて頭上からクスクスと声を漏らしている彼がいる。
「そうだ」
私は手をぽん、と叩いて彼の顔をじっと見上げた。「何?」とまた簡単な返事が上から降ってくる。
「私がどうして花形くんが好きになったか言ったら、花形くんもどうしてその気になったのか話してくれる?」
私の言葉に驚いたのは自分自身であった。だけど普段から落ち着き払った彼の表情からも驚きの表情が出てきたのだ。
「ずっと前からさんの事を思ってたから。じゃあ、さんの話でもじっくり聞かせてもらおうかな…?」
彼にしては珍しく早口でまくし立てるように、それでいて視線をずらして彼が小さく呟いた。思わず私はぷっと噴き出してしまった。
「えっとね…」
彼と話をするだけで不安が自然と吹き飛んでいく。
ねえ、たくさんあるうちのどれから、どこから伝えたらいいと思う?
私は彼の目を見つめながら、考えては消えていく色んな事を思い出しながら切り出した。