藤真健司

2008/09/10

幼なじみに贈る5つのお題より

いいから黙って

毎週日曜日の朝の恒例行事は、隣のを叩き起こして恒例のプロポーズ紛いな事ををするのが行事である。毎週朝の9時半になると、俺は 家のベルを連打して玄関を開けてもらうのだ。
「おばさん。起きてる?」
玄関に足を踏み入れると、おばさんがにこやかに出迎えて「どうぞ」と家に入るように促してくれる。は間違いなく母親似で、将来結婚したらああやって台所に立ってニコニコ笑って玄関までお出迎えとかするんだろうな、と思うとつい俺だってにやけてしまう。

はまだ寝てるのよ。夜更かしが祟ってるからお昼まで寝てるって」
「ちょっと起こしてくる」
俺はいつもの気安さで2階にある一番奥の部屋にズカズカと向かって行く。部屋に鍵なんてものは当然なく、大事にされている一人娘のお姫様は部屋の中で未だにぐーすか夢の中の住人になっている。
「おい、起きろよ。もう朝だぜ」
薄暗い窓の外から日差しが出る事もないからきっとも目覚める事はない。ちょっと遠くの私立女子高になんて通ってやがるから変わってしまったんではないだろうか、という心配はすべて杞憂に終わっているようで安心する。昔っから変わらないを見て俺は安心する。

「んー…。あー、健司くんか、おはよ…」
肩を強く揺さぶれば重たげなまぶたが開いての視界が広がっていく。起き抜け時の往生際の悪さと舌っ足らずは相変わらず健在で今日もそれを確認して思わず目を細める。そこにうつっているのは紛れもなく俺だけですごく嬉しくなる。ああ、こいつが共学に通ってなくてよかったと心から思うのだ。

「はやく起きろよ。折角の休みなのに勿体無い」
俺は手馴れたものでのベッドに乗り横にあるカーテンを開けて太陽光を取り込んでから、下に居るを上から覗き込む。わざとベッドに乗っている俺をよそには枕と離れるつもりはないらしく、目を瞑って太陽光に背を向けている。この日曜日の光景はかれこれ俺が片想いに気づいた週の日曜から続いて気づけばもう12年も経っている。この状態がどういう状態なのか考えた事は未だかつて考えた事もないんだろうな、と俺はいつもここで笑ってしまう。

「日曜日なんだからゆっくり寝ていたいって私の気持ちは無視なのかな?」
常々疑問に思っていたんだけど、私に選択権ってないの?と憮然とした表情をは浮かべながら俺を問い詰めていた。
「バーカ。お前に選択権なんてないに決まってるだろ」
俺が返答すると、納得が行かないのか、珍しくが食い下がってくる。
「あのね」
の言葉を遮るように俺は畳み掛けるように言葉を浴びせた。
「俺はが好きだから週に一回くらいは振り回してやらないと気が済まない」
12年もずっと言い続けている言葉に、はさらに食い下がる。
「暴君ネロだって今日日(きょうび)そんな事しないよ」
暴君ネロだったら今頃もっと酷い事になってるぞ、と言えば不毛な会話に突入するだろうと、俺はの言葉に突っ込む事をやめ、「の癖に生意気だぞ」とだけ言って、その両頬を掴んで俺の方へ無理やり向かせた。

「いいからお前は黙ってろ」
そういって無理やりにの唇を塞ぐと、苦しそうにうぐうぐ唸っていた。
俺が離してやれば「ぷはー」と豪快な息継ぎをして目じりに涙を貯めながらこちらを睨みつけてくる。
「話を聞けって言ってるのに…、それって話す態度じゃない…」
は怒って俺にそう言うがそこに迫力なんてある筈もない。
、お前は俺を煽りすぎ」
俺がそう言えばは顔を真っ赤にさせていた。照れから来る反動なのか、俺の頬をギリギリとはつねり上げる。不本意といわんばかりの膨れっ面を浮かべながら俺を睨みつけたままだった。俺は笑いながらその手を掴んでベッドに押し倒した。

「なあ、
いつもと違うと感じたのだろう、驚いた表情を浮かべてが俺の目をじっと見つめていた。相変わらず眠いといわんばかりに気だるそうに「何?」と返事をするにまたドキっとした。12年の初恋片想いに終止符を打つために今日は言わねばならない。
意を決して俺はを起こして強く抱きしめて囁いた。
「俺とケッコンしてください」
は何も言わないでいい。だからお願い、いいから黙って聞いて。