BREATH PALETTE
金曜日の放課後はいつも体育館に顔を出す。週の最後くらいは、と言われてから頑張って顔を出すようにしていると既に体育館にいる人たちも慣れてしまったのか、ごく普通に中へ入れてくれる。
「仙道先輩ー! 先輩が来ましたー」
すっかりお馴染みになってしまったのだろう一年生が彰くんを大声を張り上げて呼べば対極上にいる彰くんが大声で「5分待ってくれ」と声を張り上げた。
「ミニゲーム中?」
ドア前の一年生に尋ねたら「そうです」と屈託のない笑顔で答えてくれた。
「あ、明日バレンタインだからこれ差し入れ。部活後皆で食べて」
今日の朝、コンビニで買ったチョコレートを渡すと一年生が「ありがとうございます」と礼儀良くお礼を言った。
「仙道先輩こういうの嫌がらないんですか?」
気になったのだろう、隣に立ったまま一年生が呟いた。
「彰はこういうことは喜ぶ方かも知れないわね」
付き合った当初こそ、部活の邪魔になるだろうからと顔を出すのを遠慮していたら、「部活が大事で部員が好きだから、も好きになってくれたら嬉しいと思って」と言われた(だったらサボってないの、と言い返したら「確かに」と苦笑いをしていたけど)。
「お、からバスケ部にか?」
ミニゲームが終わったのか彰がタオルとポカリを持って体育館の入り口までやってきた。
「うん。皆にいちいちあげてたらキリないしお返しも大変だろうと思って差し入れ」
「はは、サンキュー。休憩中だから皆に配って来てくれない?」
一年生にそう言うと「はい」と元気良く走って一年生がチョコレートを配りに行った。
「あ、土曜日はウチ法事でいないから家に来ても無駄足になっちゃうし、彰にも先にバレンタイン渡しておくね」
私はカバンの中から違う包みを取り出して彰に手渡した。
「お、サンキュ。法事なんだ」
返事をしながらも彰があけてもいい?と尋ねてきたので「どうぞ」と返事するとスルスルとリボンを解いて中を確認していた。
「お、大量のビターチョコレート?」
「味の歯磨き粉。今日たくさんチョコ貰ってるでしょ。甘いもの食べたらきちんと歯ァ、磨かなきゃ虫歯になるよ?」
私の言葉に彰は「なんか彼女からチョコじゃなく歯磨き粉を貰うのは複雑」と笑っていた。
「でも、そういうのはやっぱらしい」
「でしょ。さっきの差し入れも食べたらきちんと歯磨き忘れずにね」
私の言葉に楽しそうに「了解」と彰が答えたのを見て私も笑ったのだった。