悪ふざけは教室で
放課後になれば、この日最大の乱痴気騒ぎがやって来た。教室はおろか廊下中がハロウィンの自主イベントであちこちで「トリックオアトリート」の掛け声が掛かっている。
面倒な日はさっさと家に帰る日に限る、とカバンに教科書類を詰め込んでいると、後ろの席から「」と私を呼びかける声に反応して顔を上げた。
話しかけてきたのは起き抜けの流川くんでじっと私の顔を見つめている。
「まさか用件はトリックオアトリートとか言うんじゃないでしょうね?」
面倒ごとを嫌う私の質問に対して流川くんはお構いなしに「ノート。数学と古文…」と単語をならべてくる。
「…寝てたのね。明日までには返してよ」
私はカバンからノートを二冊取り出して流川君に手渡した。「ウス」と返事をしながら首を一度だけ縦に振って流川君は私のノートをカバンに乱雑にしまいこんだ。
「人様のものなんだからもっと丁重に扱ってよね」
どうせ使い込めば汚くなるものだから余り気にはしていないが、一応指摘すれば、流川君は私の言葉に再度首を縦に振ってから「」と私に呼びかける。
「何?」
返事した私に流川くんは「ハロウィンだから」と話を続けた。
「菓子なんていらねえから悪戯させろ」
流川君はそう言うと私に触れるか触れないか位のキスをした。何の悪ふざけか、と叫ぼうとした瞬間、クラスの乱痴気騒ぎが水を打った様に静まった。クラス中の視線が私の背中に突き刺して苛む。
「か、帰る!」
どう言う意味でやった悪戯なのか理由も分からないまま、頭の中が混乱したまま私は教室を飛び出した。