最後の一個
この場合の『トリック(悪戯)』はどれになる?
「トリックオアトリート」
放課後、日直日誌にシャープペンシルを走らせている牧に窓の施錠を確認するが呟くように話しかけた。
「ああ、ハロウィンか」
ハロウィンの前の学校の日はいつもより少し喧騒が渦巻く。その中にもまた混じってこの小さなイベントを楽しむ一人だった、と牧は瞠目した。
彼女のことだ、十中八九お菓子のイベントという認識しかしていなのだろうな、と頭の中で彼が考えれば、それを肯定するような返事が彼女の口から出されたのだった。
「そうよ、ハロウィン。お菓子をもらえる日よ」
はそれが当然と言わんばかりの返事をして気安い仲間たちから合言葉の返答として貰ったお菓子を頬張った。
「生憎手持ちがなくてな」
爽やかに笑う牧の言葉に頬を膨らませたが軽く睨みつけたと思ったら破顔一笑したのだ。
「素敵なトリックを思いついたわ」
さきほどの顔から一転、ニヤニヤと人が悪い顔を浮かべていた。牧はそんなすらも落ちつき払いながらじっと見つめていた。
「あなたのノートに墨汁かけるとかどうかしら?」
「それは悪戯じゃなく嫌がらせだ。頼むからやめてくれ…」
頭を抱えて項垂れ返事をする牧には「それもそうね、素敵なトリックを考え直すわ」と椅子に座ってぼんやり外を眺めていた。
静かに時間だけが過ぎて行く。そもそも皆がお菓子を用意しているとタカを括っていたは、さしたる悪戯も思いつかず手持ち無沙汰に次々とお菓子を口に入れていった。
お菓子を食べ続けながらぼんやりしているが「ああ、最後の一個」と呟きながら最後のドロップを口に放り込んだ。牧は最後の一個を口に放り込んだの姿を確認してから、先ほど投げかけられた言葉を投げ返した。
「。トリックオアトリート?」
牧が突然に尋ねれば、彼が菓子を分けてほしいのだろうと認識したが「え? ああ、これが最後の一個よ。残念ね」と口の中のキャンディを見せてにんまりと笑う。
「仕方ないな。トリックかトリート、どちらかだからな」
トリックだ、と牧が呟いて、彼の口がの口を突然塞ぎ、彼女の口内にあった最後の一個のトリートを掠め取った。手際のよい一瞬の出来事の後に「簡単に盗まないでよね」とむくれながら小さな声で呟いたが生憎牧の耳まで届く事はなかった。
「ん、これは何味だ?」
満足そうに笑って最後のキャンディを味わいながら牧がに尋ねれば、彼女は不満を隠す事なく「さあね、一生悩んでれば?」とそっけない返事をする。その言葉にまともに反応した牧は「レモンか、グレープフルーツ、それともライムか?」と首を傾げながら口にしていた。
「それが私からのトリックにしておいてあげる。答えは忘れた頃に教えてあげなくてもないわ」