クリスマスに纏わる話
テスト休み期間は落ち着いて本が読めると私は市立図書館まで足を伸ばした。読みたかった本を検索して落ち着いて本を広げるていると、視界が陰に覆われた。
雨でも降るのかな。
私は顔をあげて確認するとどうやら陰になっているのは私のところだけらしくて、それが人型であるとすぐに察した。
後ろを振り向くとそこには長身の花形くんが立っていた。
「さんも図書館?」
「近くでは蔵書が一番多いから」
学校の図書館でもよく顔を合わせているので、ここにも来ている事には驚いてはいない。だが、6時まで解放している図書館で、1週間の休みで、同じ日同じ時間に来ている事の方に驚いてまじまじと花形くんを見上げた。
「隣の席空いたから、いいかな?」
平日昼間でもそれなりに人が居る図書館で席が空くという事はなかなかなく、私も「どうぞ」と促すと花形くんが隣に座る。
いつも見慣れている高さよりもずっと低い位置に顔があってつい不躾にまじまじと見つめてしまった。そんな私を咎める事なく「どうかした?」と尋ねてくるから罪悪感から「ごめんなさい」と視線を本に戻した。
「あ、そうだ。さん。オススメの本って何かある?」
「読書家の花形君がまたどうして私に?」
本が好きと言っても恐らく私と彼とでは読む本もジャンルが違う筈なのに、わざわざ尋ねてくる。
「たまには人がオススメする本でも、って思ってかな? さんは結構読み込んでるみたいだから、オススメもハズレが無さそうだなって思って」
別に困るんだったら無理にってわけじゃないから、と言う花形くんに私は机に積んでいる本の中から一冊の本を取り出した。
「もうすぐクリスマスだし、今楽しめる本って言ったらこれかなぁ」
クリスマスキャロルと表題されている一冊の本を渡すと、やはり古典にも精通しているらしく、「ディケンスだね」と即答するのだった。
「あ、もしかして既読だった?」
まあ、有名は話だからね。と私は言った。読書家の花形君に有名どころの本を渡すとはなんていう失態だろうと恥かしさから身が縮まる思いだった。花形君はそんな私を気遣うように、「うん。読んだ事あるけど、だいぶんと昔の話だったし半分内容忘れてるかも」と笑ってその本を手にとってパラパラと捲りだした。
「昔読んだ本でもね。昔とね、感じることがまた違ってくるの。感情移入する相手がね、どんどん変わっていくの」
一番好きな作品の話だからこそ、気がつけばめいいっぱい力説してしまっていた。
そんな私を見て花形君が噴き出すのをこらえるように笑っていた。
「あ、ごめんなさい。つい…」
顔から火が出そうな思いだった。
「昔とまた違った思いで読める作品っていいよね。そういう本をすすめてくれるのって、なかなか無い機会だから嬉しいよ」
そんな私をまた気遣うように花形君が言ってくれた。
「クリスマスも近いし、さんのオススメ、読ませて貰うよ」
にっこりと笑う花形君に思わず私はカバンの中からもう一冊、「あ、あとこの本もかな?」クリスマスに関する本を取り出して手渡した。
「私物なんだけど、よかったらどうぞ。ものすごく良かったから、読んでみて」
サンタクロースっているんでしょうか?
「ありがとう。今日はこれを読むから、こっちは家に帰ってゆっくり読ませて貰っていいかな」
花形君の言葉に私は静かに頷いた。
もうひとつの心温まるクリスマスに纏わる本。花形君にはどう感じるのか知りたくて。