藤真健司

2008/12/06

短編(08年クリスマス)

サンタクロース

「街中クリスマス一色だねー」
ケーキ情報を集めるためにコンビニで買ったタウン誌を前の席に座る藤真と眺めながらいつものように雑談めいた事を口にした。
はさ、クリスマスプレゼント何にした?」
家で貰うプレゼントはどんどんコンパクトになっていく。
「んー。面倒だから商品券か現金でって言っておいた」
さらっと答えるとひとしきり「夢が無い」と笑っておきながら藤真は「俺もそう。そっちのほうが確実だもんな」と言う。
「キミも夢が無い男だね」
仕返しするように私もひとしきり彼を指差して笑いながら言う。

「そういえばさ、この前街中でサンタ見た。あいつらからプレゼント貰えないかな?」
嬉しそうに言う藤真くんは本当に道に居るサンタクロースに何かしそうだから対応に困る。
「クラスから犯罪予備軍とか輩出されるのはイヤよ」
私の言葉に藤真は笑いながら
「けどよー。サンタだぜ、サンタ!」
嬉しそうに目をキラキラさせる姿はまるで少年のそれだ。
「道行くサンタには大人の対応。夜に忍び込むサンタには黙って通報。家に居るサンタからプレゼントを受け取る。サンタクロース三原則は守ろうよ」
「非核三原則かよ」
藤真が合いの手をいれるようにばっさりと私の言葉を切り捨てる。
私も「そんな感じ」と軽く流しながらタウン誌をパラパラと捲ると藤真はページごとに反応しては揃ってくだらない話に没頭した。

「あ、でも俺やっぱ、サンタのほうになりたい」
突然思いついたように藤真が言い出したのはクリスマス限定コフレ特集のページを見ている時だった。
突拍子もない、あまりにばかばかし過ぎるに言動に私は
「17・8になる高校三年生が何言ってんのよ」
と言うと、本人はいたって真剣なのか、「いや、俺サンタになる」と言うので頭が沸騰したのかと私は訝しげな表情を隠せずに彼の様子を窺った。

「サンタになってどうするのよ」
まさか他人様の家に侵入とか、面白半分でするんじゃないでしょうね、と尋ねると藤真は口角を吊り上げて爽やかに笑った。
「サンタになって んとこに行く」
「…ウチに?」
「恋人はサンタクロースって歌知らね? ユーミンのヤツ」
まるでいいことを思いついた、といわんばかりの得意げな表情をするものだから、言われたこちらの方が反応に困り無言で藤真を凝視した。

「あ、俺、やっぱ のサンタクロースになるって決めた」
自問自答なのか、勝手に結論を出して満足げな表情で「だからよろしくな」と軽々しく言いのける藤真の言葉に
「冗談もほどほどにしないと社会的な信…」
私の声を遮って「本気」と言う声が聞こえて来た。
「俺の事嫌いじゃないだろ?」
消極的な事を尋ねてくるので「嫌いじゃないよ」と答えると「じゃあ決定。俺がサンタな」と返答される。
「普通“好き?”って尋ねるものじゃない?」
私の問いかけに「俺は が好きで、 は俺のことが嫌いじゃない。ついでに は付き合ってるヤツもいないさびしい独り身。問題ねーじゃん。だから、よろしくお願いします。ほら、返事は?」
あまりにも自然に言うものだからつい私も挨拶代わりみたいに
「え、あ、よろしく」
と言ってしまった。心の準備とか、そういうのは無しでクリスマス直前にサンタがやってきた。