イルミネーション
入学式も遠足も運動会も文化祭もハロウィンもつまんなかった。
夏休みはちょっと楽しかったけど、クリスマス前が一番つまんない。
だって、アンタが居なくちゃ楽しくないんだもん。
パソコンでメッセンジャーを開くと彦一が今日もログインしていた。
違う。パソコン開きっぱなしだからログインしっぱなしと言うのが正しい。
私がパソコン切ってもメッセージだけは向こうに残る。
私はパソコンの向こうに居る彦一にメッセージを送り込んだ。
ルミナリエ行っててん。今年も綺麗やったよ
メッセージを送ってから暫くは、家族で食べるデパ地下のクリスマスケーキの調べ物。
デパートのサイトのケーキでどれがいいかを考えながらあちこちサーフィンしている途中に携帯電話がけたたましい音を立てた。
着信を見て慌てて電話を取って「もしもし!」と言えば、『あーか?』と彦一の声が聞こえてくる。
「私の携帯に私以外誰が取んのよ」
私の言葉に『やんなー』と彦一がケラケラと笑っていた。
『さっき帰ってきてん。パソコンみたらルミナリエ行ったってメッセ入ってたからかけてみてん』
ログインしているんだから、わざわざ電話しなくても、と思いながらもやっぱり嬉しい私は悪態をつく事もなく「いーやろー」と言って笑えば向こうから笑い声が聞こえてきた。
『ええなあ。ルミナリエ行ったんや。あのシンメトリ好きやもんなあ』
おととしのルミナリエはクラスで気の会う何人かで見に行った。
左右対称なのは職人技すぎて凄いなあ、と言えば「ほんまやなあ」と同意してくれたのは電話向こうの男たったひとりで、みんなが呆れる最中、二人で左右対称の素晴らしさについて語ってたっけ。
「ルミナリエもやっぱクリスマス前にするようになったみたいやわ」
震災モミュメントでありながらもクリスマス名物の象徴だったルミナリエはいつしかクリスマス前に開催するようになってた。
『やっぱそうなんやー。でも毎年中止になるかもって言いながら今年もあったんやなー』
彦一が話している最中、私はパソコンのキーボードを音を立てずに打ち込んだ。
でも、彦一がおらんかったらめっちゃ面白くなかったわ
そうメッセージを書いて送信ボタンを押す。電話の向こうで着信音が聞こえて来た。
その後暫く続く無言。送って拙かったか、と私は黙って携帯電話を握り締めた。
ポロロンとメッセの着信音が流れてきてボックスが開いたのでメッセージを確認した。
来年な、頑張ってレギュラーになって、二学期の期末が終わったら大阪に帰るわ。そしたらまたルミナリエ行こか
と書かれていた。
『強行遠征にも慣れなあかんし練習ついでやからな』
電話の向こうでまくしたてるような早口で彦一が喋っていた。私は「うん」と返事をして泣きそうになるのを堪えたのだった。