アドベントカレンダー
「今日のお菓子はマシュマロだったよ」
教室に入ると神くんにお菓子をひとつ渡すのが12月になっての私の日課になった。
「ありがとう」
いつも笑顔を絶やす事なく神くんがお菓子を受け取って封を開けた。食べるのを確認してから私も自分のポケットからマシュマロを取り出して口の中へ放り込む。
「昨日の飴はハズレだったから、今日のお菓子は嬉しいな。もうすぐクリスマスだね」
飴はあまり好きじゃないらしく神くんがお菓子の感想を述べながら話しかけるので私もマシュマロを噛みながら「うん。そうだね」と返事をする。
「しかし神くんちって洒落てるよね。アドベントカレンダーって言うんだっけ。あんなアイテム普通知らないってば」
こんなものを用意する家庭はない。クリスマスと言えばサンタ、ケーキにシャンパン、チキンにツリーとプレゼントというのがごく一般的で、ごくたまにシュトーレン、と言う家もあるが、彼の家は昔からアドベントカレンダーがあると言い出したのが11月半ばの話で、ソレって何?と尋ねたら週明けに現物を学校に2セット持って来た。
「ウチの親がアドベントカレンダーを買って来たらすぐに全部開いちゃうから12月に入ったら毎日1個開けてお菓子を持ってきてくれないかな?」
面白そうなアイテムと、1セットはあげると言うちらつく餌を前にして私はふたつ返事でオーケーの返事をしたのが件だった。
「もうテストも今日で終わっちゃうね。テスト休み中の分は終業式にまとめて持って来こようか?」
期末考査が明けたらつかの間の休みがやってくる。学校から徒歩5分と言う立地条件に恵まれたところに住んでいるが、帰宅部の私は学校に来る用もないので行かない。
そしていくら学校からご近所といえど神くんの通学路とは正反対なので取りに来て貰うのも悪いとお菓子の処遇について確認を取った。
「テスト休み中でも部活はあるし、学校までジョギングするからついでに取りに寄ってもいいかな?」
彼の言葉に「8時までは寝てるからそれ以降なら」と条件付の返事でオーケーと親指と人差し指で
「だったら玄関にでも置いておくから毎日開けて行くとか。折角のアドベントカレンダーを自分で開けないってのも何でしょ?」
もともとひとつは神くんからの預かり物であるから、自分で開けるのが楽しみのひとつなものを私が開けるというのも些か気が引けていたので、尋ねてみれば、神くんはまるで名案といわんばかりに、ぽんと一度だけ手を叩いて
「あ、それもいいかもね。毎日さんに開けさせてるみたいだし」
と私の提案をすぐに飲み込んだのだった。
「毎日デリバリーして貰うってのが一番いいと思ったけど、さんちの玄関までお邪魔して開けるって言うのがもっといい方法だったかも知れないね」
神くんが納得しながら話を続けているので私もうんうんと頷いた。
「さんの遅刻阻止も出来て一石二鳥だし」
耳が痛い所を突きながらもニコニコと神くんが笑う。私は頷くのを止めて「…そうだね」と曖昧に笑った。
「じゃ、明日からさんちにお邪魔するけど、よろしくね」
神くんはそれはもう物凄く嬉しそうに私に言ったのだった。