クリスマスブーツ
「クリスマスと言えばブーツだよな」
終業式の帰り道に信長君がそんな事を切り出した。クリスマスと言えばブーツ、となればお菓子のつまったアレしか思い出せない私は
「お菓子のやつ?」
と尋ねたら「それ以外になにがあるんだよ」と返って来た。
「あのブーツか。懐かしいね」
いつしか貰わなくなったお菓子の入ったクリスマスブーツの話が上って雑談が始まった。
「あれさー両足貰ったら履けるかもと思ったんだよな。けど絶対かたっぽしかくれなかったんだよなー」
昔の思い出話を思い出しながら表情豊かに話し始める信長君に頷きながら聞き役に回っていた。
両足欲しくて泣いて怒られた年が小学校1年生の時だとか、クリスマスブーツは結局小学校3年生まで貰ってたとか、信長君の少年期の話は楽しくて聞いてて飽きが来ない。
「あー、信長君らしいね。君はもしかして昔から直情バカ?」
指差してわざとらしく笑えばムキになったのか「てめぇ!」と信長君が声を張り上げる。私は「嘘嘘ごめんごめん」と言いつつも笑って逃げると「逃げんなー!」と後ろから信長君が追いかけて来た。
本気で追いかけっこをしても圧倒的不利な私は最初から勝負を放棄して、ホールドアップした状態で
「ごめんごめん。冗談だから。私もブーツは両足あったらいいのにって昔に思ったもん」
私の言葉に満足したのか信長君も「そうだろー」と得意げに頷いていた。
「けど、の場合は『もらえるお菓子も倍』と思ったんだろ。食い意地の塊だな」
さっきの意趣返しなのかにやつきながら信長君が指摘する。
「ちょっと酷!」
私は昔から夢も希望もないすさんだ子供か!と詰め寄ったら、彼もホールドアップしながら
「悪ぃ悪ぃ。さっきの仕返しだ」
と屈託なく笑ったのだった。
「本当信長君ってば最悪だよね。デリカシーがないっていうかさー」
「それはもだろー」
お互いに文句をぶつけ合いながら歩いていると交差点左手にコンビニが見えたので私は立ち止まると隣と歩幅が合わなくなったのが気になったのか信長君が「どうした?」と尋ねてきた。
「あ、コンビニ。ちょっと寄ってくから待ってて。面倒ならかえっていいよ」
私の言葉に信長君は「あー俺も入る」と言うものだから一緒にコンビニの方向へ足を向けた。
「ありがとうございましたー」
ブーツの話をしていたから思わずブーツ、売ってないかなと入ったら売っていたので思わず小さいサイズのやつをひとつ買ってしまったのは、信長君もブーツを手にとっていたからだ。
小さなブーツ入りのお菓子片足500円。
「はい、クリスマスプレゼント。もう履けないだろうけどこれで両足分だね」
店の袋に入ったまま信長君の前にブーツを差し出すと、
「え、お前が片足買ってから、俺のヤツで両足だと思って買っただけだぞ!」
と言い返して来た。
一瞬の沈黙の後、コンビニの駐車場で二人で大笑いした。
なんてことはない、私は信長君がひとつ買うつもりで居たから買って、信長君は私がひとつ買うつもりだったから買ったらしい。
「私たちって心が通じてないなあ」
「俺たちって心が通じ合わないな」
ぴったり重なった言葉にまた二人で大笑いをする。
だってこんなに心が通じてるのに肝心なところですれ違うって、あまりにもばかばかしすぎる。だから面白くて笑ってしまう。
「?」
「ん、なあに?」
「折角だから交換でもするか」
信長君の言葉に私が「それ私のセリフ!」と言って笑いながらコンビニの駐車場で同じものをふたりで交換した。
「うん。悪くないクリスマスだ」
信長君の一言で次は目を合わせてまた二人で静かに笑った。