クリスマスケーキ
「あら福田吉兆。いいところに居たわ。部活は休みね。休みじゃなくても休みなさい。今日は終業式よ」
私は隣のクラスの一番後ろのドアから出てきた福田吉兆と同じタイミングで自分のクラスの教卓横のドアから出てきたみたいで、顔を合わせてお互いに「あ」と呟いた後で畳み掛けるように話をして彼が何か言い返してくる前に手をとってズンズンと廊下を歩いて下駄箱まで足を向けた。
昨年同じクラスだった彼の事は嫌いじゃない。寧ろあのかわいい性格は好きだと言っても過言じゃない。プライドが高くて、それでも仙道の引き立て役と叱られ役になってしまって、すねた姿にはキュンと来た。
あ、なんか私変態ぽい考えかも知れないけどまあいいか。
「一体何がどうしたんだ?」
私の傍若無人を1年1学期こそ目くじらを立てて怒っていたのだがいつしか大人になって私の思いつきからくる行動もさらりと流すようになっているのにはちょっとだけ腹が立つ。
「クリスマスなんだし。さびしいもの同士でケーキなんてどう?って思って。食べに行くのよ」
勝手にさびしいもの同士だと私は決め付けてズンズン進んでいく。学校の女子生徒の殆どは仙道くん目当てで後ろできゃあきゃあ言って笑っている。
私は笑いながら福田吉兆の手を相変わらず引っ張ったままだ。
私の傍若無人に目を回しているのか、福田吉兆が私にされるがまま引っ張られている。
私はそれがおかしくて嬉しくてその手を強く握り締めて走り出した。
さびしいもの同士なんて嘘だ。福田吉兆はさびしいものなんじゃないかも知れない。
もしかしたら好きな子がいるかも知れないし付き合っている子がいるかも知れない。
だけど知ったことでもない、と知らない振りをしている。
本当に好きだから、私がさびしいから連れ出しただけ。
「…コーヒー以外の飲み物がある店がいい」
後ろから掛かった声に私は振り向いた。はにかむように笑う福田吉兆はやっぱり可愛い人だった。そして安堵する。そんな表情を向けてくれる事は、特定の相手も居ないし私には勝負する余地が残されている。
「大丈夫。どこのケーキセットだってオレンジジュースとかコーラとかあるんだから!」
どこのケーキ屋さんがいい? と振り向いて尋ねる私に
「に任せる」
とさっきとは打って変わった力強い声が聞こえて、私が握った手を強く福田吉兆が握り返してくれた。その手はとても力強かった。
「オーケイ。駅前のおいしいシフォンケーキの店ね。決定。今更異論はなしよ」
駅前のガラス張りの店で、帰りに見える学校じゅう冷やかされに行きましょう。