流川楓

2009/03/13

短編

03/14

「ごめんなさい」
「もっとしっかりしなさい。 さんもうすぐ二年生になるのよ」

図書館の先生に一通り怒られた後、当初の目的どおり、二週間遅れで借りた本をやっと返した。
学校は既に春休み。
貴重な休みの一日が自分のポカで潰れてちょっと凹んだ私は、人がまばらにしか居ない学校を一人で探検する事にした。

先生も生徒もほとんど居ない学校というのはちょっと奇妙に映って、面白半分にあちこち見て巡回してみた。さすがに運動部だけはしっかりと練習しているみたいで、掛け声はあちこちから聞こえてくる。

「帰るかー」
すっかり探検に飽きてしまい、独り言にしては大きな声で呟いた私はそのまま自転車置き場に一目散に向かっていく。
出て行く時はこれから西に傾く頃だったのに、いまではすっかり綺麗な夕焼け空になっていた。

だ」
背後から声をかけられて私は驚いて振り返った。クラスメイトの流川が後ろに控えていた。
ああ、部活か、と思い「部活?」と訊ねると「ああ」と小さな声で返事が返ってきた。
「大変だね。じゃね」
そういえば自転車通学組だったか、と思いながら自分の自転車を取り出してペダルを踏むと反動が帰ってきた。どうやら前カゴが流川の手に阻まれていて前に進むことが出来なかったらしい。

「何?」
「やる」
私の言葉に流川が一言ぼそりと言ってカゴの中にお菓子をいくつかぽんぽんと投げてきた。
「部活の差し入れで貰ったやつ?」
私の質問に「ホワイトデー」と流川が返してきた。というか流川の口からホワイトデーとか出てくるとか思いもせず私はぽかんと口をあけたままカゴの中に入れられたお菓子のパッケージと流川の顔を交互に何度も確認した。

お菓子がここまで似合わないヤツも珍しい。
ではない。私はバレンタインなんぞ参加はしていないのだ。
「お返しもなにもバレンタインすら渡してないけど」
誰かと勘違いしてない?と続けようとした私の弁を遮るように
「貰わねえとやっちゃなんねえ理由とかあんのか?」
と質問されてしまったものだから返答に困ったのだ。

まあ、誰がどうしようと関係無いっちゃあ関係無いのだ。
「そりゃ無いけどさ」
私の回答に納得したのか流川が「だったらそれでいー」と返事をして自分の自転車を取り出していた。 「じゃあな」
流川はそのまま私の帰路と反対方向にペダルを漕いで急いで帰っていく。カゴの中に入れられたお菓子の中からここ数ヶ月自分の中で大絶賛のお菓子を一粒取り出して口の中に放り込んだ。

お菓子を貰ったものの、きっと食べそうな感じでもないしなあ。丁度良さそうなのが見つかったと押し付けただけか、と考えたらすんなりと腑に落ちた私は、何も考えずにもうひとつお菓子を口の中に入れた。
「お菓子に罪は無いもんね」
私は上機嫌でお菓子を食べながらペダルを踏んで流れる景色を眺めていた。その景色はいつも見る風景と少しだけ違うよな気分に思えてならなかった。