けもの道
外道へ身を落としても尚、僕は確かに貴女を。
この時代でも僕の進んだ道はやはりけもの道でした。
戻る事の出来ない道をまっすぐ歩くだけの僕と相成りました。奪う事もできる僕に一つの光を与えた貴女を手にする事は適わないのです。また同じ過ちを繰り返したのです。六道輪廻の道かも外れ、僕は既に外道となっているのにその手に未だすがろうとしているのです。
今度こそは貴女と一緒に光射す道を歩こうと決めたのみ僕はまた朱に手を染めてしまったのです。制止する声なんて彼方へと追いやって、手を朱に染める事に快楽を覚えたのです。
僕は畜生道にまたしても落ちるのです。貴女は今度こそ僕を蔑み嘲るでしょうか。今度こそ愛想をつかして離れてくれるでしょうか。既に外道となっていてもまだその手はぬくもりを持って迎え入れてくれたのです。
「ダメだ!止めて!」
制止の声は遠くにやられて仕舞いました。
憎きは貴女を貶めたあの男に。
迷わずに噛み千切りました。
「嗚呼…」
力無く座り込む貴女の隣に僕も座ればゆっくりと手を差し伸べて貴女は僕を頼りなさげに抱き締めました。
「骸、済まぬ。済まぬ」
確りとした声は済まぬ、済まぬと繰り返しやがてその譫言も嗚咽交じりに繰り返されました。僕は知りました。
僕はまた畜生道に落ちたのだと。
彼女はそれを嘆いているのだと。
「構いません、が望む事なら厭いません」
それが精一杯でした。一度落ちたと理解して仕舞えばそれは畜生道。道連れを望むものだと、奈落へ行くに供が欲しいと、道連れが欲しいと。しかし貴女を連れて行くわけには行かない、まともな理性が残る間に、理性が正常な狂気へ変わる前に。
僕はこの腕を振り払わねばなりませんでした。つらく悲しいことだと理解するのに時間はかからない事でした。
「さようなら、次の世界で逢えたなら」
力強く彼女を押し出して僕は夕闇に呑まれて行きました。後ろから聞こえる嗚咽も小さくなり耳に残りやがて消える所まで。
畜生道に身を落とせども、貴女を求めてやみません。添い遂げば引き摺り落とすと解ってながらも求めてやまないのです。
貴女を奈落の底へと。
貴女は光差す世界で。
相反する感情に未だ振り回され。
嗚呼、僕は、僕は。
そして嗚咽を上げて僕は嘆いたのです。何年も何十年も何百年も姿を替え、形を替え。道連れを作りながら。
「どうしたんですか?痛むんですか?」
ええ、心が。
道連れにしようと顔を上げた時、痛みが消えた。そこにはが、姿を替えて新たな生命を得たがそこに居たのです。手には僕を気遣うかのように濡らしたハンドタオルを持って彼女は目の前に立っていたのです。
「もう大丈夫です。ありがとうございます」
濡らしたハンドタオルを受け取って僕は彼女に微笑みかけました。
「僕は六道骸と言います。あなたのなまえは?」
「あ、。です」
僕の問いかけに彼女は笑って答えました。僕はまた逢えた事に満足していました。やがてまた不満と思うのだろうと予感を胸に画しながら。
「、ですか。良い名前ですね」
僕の呼びかける声に彼女は悲しそうに微笑むのです。
けもの道でまた君に出逢えました。