土方十四郎

2009/03/14

我儘な君へ5のお題

俺以外には無理だろう

――副長でしたら、たまには私のワガママっぷりを叱ってくれても宜しいのに
以前に部下が漏らした言葉が頭によみがえる。
。そこに座れ」
真剣な表情を作って静かに言えばは黙って俺の前で正座をする。

「お前な、もう少し自分の立場を言うものを理解してくれ」
頼むから、と付け加えた俺の言葉に今にも泣き出しそうな表情で、それでも泣くまいと必死で堪えて神妙にするの姿がそこにはあった。
屯所の中でもがぐるぐるに包帯を巻いてやってきた姿を見て大騒ぎになっている。
知らずは本人ばかりなり、とは良く言ったものだ。

「で、どうしてそんなことになったんだ」
「何も副長のお手を煩わせる事もありません」
追求からのがれようと必死になりながら強い語調で拒否するものだから説得力すらない。むしろ何かありましたといわんばかりの態度に、篭城戦だなと心の中で呟きながらわざとらしい溜息をついて目の前で正座しているを見下ろした。
外に発散させる総悟と違いは内に篭る。こうなったははっきり言って総悟よりもタチが悪い。

「言えって。はいつも何も言わないから、こっちが見てて嫌になる。そんなに俺が信用出来ねえか?」
俺の言葉にがぶんぶんと首を横に振って「そんな事ありません!」と強い口調で否定する。その調子で話してくれれば幾分楽なんだが、と俺は溜息を吐いた。

「だったら言ってみろ。言うだけタダってもんだ」
「いえ、副長にわざわざ報告する事でも御座いません」
「事務処理担当だろうけどよ、腕っぷしも確かな部下が満身創痍で出勤でもすれば流石に上官として気になるだろうよ。命令だ、報告しろ」
俺はの弁を遮るように言うと、強張っていたの表情が少しばかり弛緩してゆっくり息を吐き出していた。

「申し訳ございません。夜盗と遭遇したので追いかけたら高杉晋作の一派でした。報告書は上げてます」
「もしかして追いかけたのか。お前の力量じゃ敵わない相手だろ」
「暗闇で判別がつきませんで、判別がついてからはひたすら逃げの一手でした。満身創痍ながら逃げおおせたのは僥倖でした」
バツが悪そうな表情でぽつりぽつりと弁解にもならない言い訳を始めた。

の弁解を聞きながらこいつの左の二の腕を握ってみた。

ずっと華奢な腕の癖によくこれだけで逃げ仰せたものだと息を吐けば、どうやら呆れていると解釈したようで「不覚を取りまして、というより見逃してしまいまして申し訳御座いません」と項垂れたいた。
「いや、痛いだろ」
の表情は二の腕を握った地点で眉間に皺を寄せて我慢しているような表情になっているのを見逃す様な洞察力のない人間ではない。

「痛かったらきちんと言えよ」
俺の言葉に素直にが頷きながら
「ものすっごく痛いです。骨折とはいかないまでも、かなりの打撲なんですよ」
俺が怒らないと分かったのか、すっかり安心しきったは離された二の腕を庇うようにしながら決して吐かない弱音をぽつりと吐き出した。
「そうか。労災なんだからきちんと病院に行けよ」
俺の言葉に目の前で小さくなっている部下は珍しく「ハイ」と素直に言葉を返してきた。

ジャジャ馬を扱うのも決して楽じゃない。